193-衆-総務委員会 違法行為抑止弱める 田村貴氏 住民訴訟規定改定ただす

田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。
 私の方からは、地方自治法の改正案について、その中で住民監査と住民訴訟について質問をいたします。
 住民監査請求権、住民訴訟提起権は、自治体の構成員である住民の利益を保障するために、法律によって認められた参政権の一種であります。
 その意義については、最高裁判所の一九七八年三月三十日の判決においても、次のように述べられています。「財務会計上の違法な行為又は怠る事実が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであるところから、これを防止するため、地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として、住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え、もつて地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたもの」とされたところであります。
 地方自治体においては、たびたび、職員の過剰な接待であるとか公金の不正支出、あるいは不当な売買契約、違法入札など、数多くの地方公共団体において財務会計上の違法行為がありました。これに対して、住民みずからが住民監査制度や住民訴訟制度を通じて是正させてまいりました。行政の執行に緊張感を与え、これまで、地方財政の健全化や適正化、そして無駄遣いの防止に多大な貢献をしてきたところであります。
 そこで、高市大臣に伺います。
 住民監査や住民訴訟というのは、こうした重要な意義を持っているものと考えますけれども、大臣の受けとめはいかがでしょうか。
〔委員長退席、坂本(哲)委員長代理着席〕


高市国務大臣 住民訴訟制度は、住民自身が訴訟を提起することを通じて、地方公共団体の財務の適正性を確保することを目的とする制度でございます。
 不適正な事務処理の抑止について一定の役割を果たしてきたものだと認識をしております。


田村(貴)委員 改正案の内容について質問します。
 改正案では、地方公共団体の長などが負う損害賠償の限度を政令で定め、自治体はそれを参酌して、その額を条例で定めるというものであります。その政令の基準は、会社法、独立行政法人通則法などを参考にして決めるというふうにされています。
 しかし、それは、自治体の首長などに対する、違法な財務会計行為に対する是正効果や抑止効果といったものをなくしてしまわないか、そういう懸念があるんですけれども、総務省、いかがですか。


安田政府参考人 お答えいたします。
 委員御指摘のとおり、住民訴訟制度は、地方公共団体の財務の適正性を図ることを目的とするものでございまして、違法な財務会計行為に対する是正効果や抑止効果を有しているというふうに考えております。
 今回の見直しでございますが、軽過失しかない場合にも、違法な職務執行行為を行った長等が一定の範囲で損害賠償責任を負う点では従前と変わらないわけでございまして、違法な財務会計行為の是正や抑止という住民訴訟の機能は従前と変わらず発揮されるものというふうに考えているところでございます。


田村(貴)委員 日弁連の意見では、「政府が設定するとされている免除に関する参酌基準や免除の下限額については、住民訴訟の違法行為抑止効果を減殺することのないよう、相当な程度の額に設定しなければならない」というような意見が出されています。免除の設定というのが住民訴訟の違法行為抑止効果を減殺する可能性について言及されています。
 損害賠償責任の免責についてでありますけれども、善意でかつ重大な過失でないときとされていますが、具体的には、その判断は誰が行うんでしょうか。


安田政府参考人 お答えいたします。
 善意でかつ重大な過失がないときとは、地方公共団体の長などが、違法な職務行為によって地方公共団体に損害を及ぼすことを認識しておらず、かつ、認識していなかったことについて著しい不注意がない場合を指すものと考えているところでございます。
 この認定についてでございますけれども、具体的には、住民訴訟の中で、当事者から条例の適用に関する主張がされることによりまして、裁判所において判断されるものと考えているところでございます。


田村(貴)委員 善意でかつ重大な過失でないときの判断は、裁判所において行われるということであります。
 では、この一部免責について、自治体が条例で定めるということは、裁判所にとってみたら、判断にどういう影響をもたらすものと総務省は考えますか。


安田政府参考人 お答えいたします。
 現行の住民訴訟におきましては、長や職員の損害賠償責任については民法上の損害賠償責任、不法行為責任と解されておりまして、長や職員に故意または過失がある場合には、相当因果関係のある損害の全額について責任を追及されるということになっております。
 今回の改正後に地方公共団体が条例を制定した場合には、裁判所において、まず故意、過失の有無だけではなくて、当事者の主張に基づいて、軽過失か重過失か、これは条例の適用の有無についての判断をする前提になりますので、これが判断されるということになるものと考えております。
 当然でございますが、軽過失と判断された場合には、損害賠償額が条例で定める限度に限定されますので、損害額が最低責任額を上回る部分については免責をされる、こういうことになるというものでございます。


田村(貴)委員 条例があるということが裁判所の一つの判断になるとするのであれば、やはりこれは軽過失の判断も出てくる、それが促されてくるのではないかなと私は懸念するものであります。
 ひいては、住民の監査請求や住民訴訟に抑止効果をもたらすもの、そうした問題があると思いますけれども、どうですか。私はやはり抑止効果がもたらされていくのではないかなと思うんですけれども、いかがですか。


安田政府参考人 お答えいたします。
 私どもとしましては、今回の制度改正によりましても、軽過失の場合であっても、限度額は設定されるということになりますが、責任は問われるということでございますので、必ずしも抑止効果をもたらすものとは考えていないところでございます。
〔坂本(哲)委員長代理退席、委員長着席〕


田村(貴)委員 次に、自治法二百四十二条の、新設の十項についてお伺いをいたします。
 最初に確認をしますけれども、自治体の首長等に対する住民からの損害賠償請求について、議会がこれを放棄するという議決をするときであります。
 そのタイミングの話でありますけれども、住民監査が行われた後であるならば、監査が行われる前であってもできるのか。訴訟となって、訴訟中であることは、もちろんできるわけですけれども、判決確定後のいずれの段階においても、この議会の放棄の議決というのは今の制度の中ではできるということでしょうか。


安田政府参考人 お答えいたします。
 現行制度におきまして、議決による権利放棄をする時期の制限というのはございませんので、今御指摘のございました、住民監査請求のあった後あるいはある前でも可能でございますけれども、あるいはまた訴訟の判決が出た後、いずれの段階においても放棄することは可能でございます。


田村(貴)委員 そうなってきますと、住民が自治体の長等に対して、不正がある、そして不正使用があるとか、そうした形で住民監査を行います。そのときに、議会が、請求のいかんを問わず、あるいは監査の内容のいかんを問わず、請求直後に放棄の意思を示してしまう、議決をして示してしまうというのは、これは非常に重たいものがあるんじゃないか。住民に対しては非常に重い意思が示されてしまう。
 往々にしてそういう流れに進むのではないかなという懸念を持ちますけれども、いかがでしょうか。


安田政府参考人 お答えいたします。
 先ほどは現在の制度を申し上げましたけれども、今回の改正法におきましても、放棄の時期に制限がないのは同様でございます。
 ただ、議決による権利放棄につきましては、平成二十四年の最高裁判決で、議会の裁量権に基本的には委ねられているが、諸般の事情を総合考慮して、これを放棄することが裁量権の範囲の逸脱または濫用に当たると認められるときは、議決は違法となり、放棄は無効となるという判例がございます。
 今回、時期についての制限はないわけでございますが、いずれにいたしましても、この判決の枠組みに沿って、議決の有効性、適法性というものが判断されるものというふうに考えております。
 また、住民監査請求直後に放棄するということであれば、そのタイミングで放棄することの必要性についても説明を求められることになるというふうに考えている次第でございます。


田村(貴)委員 ちょっと話をまとめますと、高市大臣にお伺いしたいんですけれども、つまり、住民監査請求があった、そして、その監査請求に対して、議会が長の立場に立って条件反射的に損害賠償請求を放棄するということは今度の法改正の趣旨ではない、そういうことを目指したものではないということでしょうか。


高市国務大臣 今回の改正は、債権放棄の判断の客観性や合理性を担保する仕組みとして、監査委員の意見聴取手続を設けたものでございます。
 仮に、監査委員の意見に沿うものであっても、妥当性を欠くような放棄議決がされた場合には、最終的には住民訴訟において放棄議決の妥当性が争われることになります。
 したがって、監査委員に対する意見聴取手続が義務づけられるということによって住民監査請求直後の放棄が促進されるとは言えませんし、もとより、それを促進することは今回の改正の趣旨ではございません。


田村(貴)委員 条件反射的に議会が放棄を議決するということを想定しているわけではないという話であります。
 しかし、先ほどから議論をし、そして答弁をいただいているわけでありますけれども、制度上は、住民監査請求があったその直後に議会が放棄の議決をすることは制度上可能なんですよね。可能なんですよ。そういうところがやはり制度上としてあるんだったら、監査委員の意見を聞けばいいやという流れが生まれやしないかというふうに思うわけです。
先ほど、首長の善意でかつ重大な過失でないとき、この判断というのは裁判所が決めるという話でありました。損害賠償請求の有無についても、最終的にはここで決着させたいというふうに住民が思っても、監査の請求があった時点で、監査が開かれようが開かれまいが、監査委員の意見を聞くことによって議会が議決できるという制度があるというのは、これはやはり私は問題ではないかなというふうに思います。
 ここは議会の判断がまず先行してくるんだね、あるいは、この自治体に対してはこういう住民側の問題意識があって監査請求を起こすんだけれども、議会が門前払いしてしまうかもわからないということになれば、それは請求者である住民の意欲をそぐことになってしまうのではないか、住民に対しての抑止力を与えてしまうものではないのか、監査委員の意見をつけることによってもこの流れというのは変わらない、私はそう思うんですけれども、総務省、いかがですか。


安田政府参考人 お答えいたします。
 放棄の時期に制限がないということは、改正前、改正後を通じて変わらないわけでございます。今回は、意見聴取の手続を義務づけたということでございます。
 この義務づけは、もちろん、先ほど大臣から御答弁申し上げましたように、住民監査請求直後の放棄の促進を意図するものではございません。
 仮に、住民監査請求があった直後に議会が放棄議決をしたとしても、先ほどもこれも申し上げましたが、住民訴訟が提起されれば、当該放棄議決の違法性のほか、長などの行為の違法性についても裁判所において判断されるものというふうに考えております。
 したがいまして、住民監査請求があった直後に議会が放棄議決を行うことができるということになっていることが、直ちに住民訴訟の提起に影響を与えるものとは一概に言えないものと考えているところでございます。


田村(貴)委員 でも、やはり住民の代表である議会によって放棄の議決というのは、非常に重いものがあるということであります。
 そうしたことが条件反射的に起こらないようにすることが私は求められると思うんですけれども、そういう対策等についてはお考えでしょうか。


安田政府参考人 今回の改正によりまして、議会が放棄議決をする際には監査委員の意見を聞くということにされているわけでございます。
 この監査委員の意見、これは監査委員の合議による慎重な審議を経た上で機関としての意見が述べられるということになるわけでございますが、今回の改正であわせて盛り込んでおります監査基準、監査委員が策定することになる監査基準、これにおいてどのような意見を述べるべきかということも定められるべきだというふうに考えております。
 この点については、私どもの方で指針を定めて助言をするということになっておりますので、その中で検討してまいりたいというふうに考えている次第でございます。


田村(貴)委員 指針を定めて、その中で検討、助言を考えていくということですね。
 第三十一次地制調では、損害賠償請求権の訴訟係属中の放棄を禁止することが必要とされていました。それが覆されています。
地制調の答申は、すなわち、不適正な事務処理の抑止効果を維持するという趣旨ではなかったのではないでしょうか。この趣旨がどうして翻ってしまったんでしょうか。


安田政府参考人 お答えいたします。
 御指摘のように、訴訟係属中の損害賠償請求の放棄につきまして、第三十一次地方制度調査会の答申におきましては、四号訴訟の対象となる損害賠償請求権の訴訟係属中の放棄については、長や職員の賠償責任の有無について曖昧なまま判断されるという問題もあり、御指摘のように、不適正な事務処理の抑止効果を維持するため、禁止することが必要と指摘していたところでございます。
 しかしながら、その後の検討の中で、住民訴訟の係属中に限って権利放棄を禁止することは、むしろ住民監査請求中や住民訴訟提起前の権利放棄を誘発することになりかねないという課題があること、それから、たとえ訴訟係属中に放棄されたとしても、平成二十四年の最高裁判決の枠組みに照らしまして、その有効性について訴訟の中で判断されることになること、こういうことから、今回の改正においては制度化を行わなかったところでございます。


田村(貴)委員 やはりここは議論のあるところだというふうに思います。
 次、質問しますけれども、監査委員の意見を聞くということですけれども、その意見の聞き方であります。
 議長が監査委員から意見を聞きました。まあ口頭でも聞いたということになると思うんですけれども、聞き方についてはどういう場面を、どういう聞き方を想定されているのか。また、その意見を聞くという行為に対して、それは住民も知ることができるのか。そういったことについて教えていただきたいと思います。


安田政府参考人 お答えいたします。
 監査委員からの意見聴取の具体的な運用につきましては、これは各地方団体に委ねられることになるわけでございますが、一般的には、議会が議長名で監査委員に対して意見照会を行い、これに対して監査委員が文書で回答するといった運用が想定されるのではないかと考えております。
 また、この監査委員の意見でございますけれども、損害賠償請求権の放棄議案の議会審議の中で住民に対しても明らかになるもの、このように考えている次第でございます。


田村(貴)委員 やはり聞き方のあり方についても、法の提案の中では不透明である。それから、議論してきましたけれども、損害賠償請求というのは監査の前に退けられてしまう可能性がある。
 住民監査、住民訴訟というのは、冒頭申しましたように、地方財政の健全化それから無駄遣いの防止に多大な貢献をしてきた。やはりこういった制度の維持発展というのが求められるところだと思います。
 しかし、この法改正によって、どうせ議会が退けてしまうんだろう、やっても無駄だ、そして損害賠償の限度額も決められてしまった。これは、住民監査、住民訴訟の機運がそがれてしまうのではないか、そういう懸念は拭い去れません。
 本改正案には以上述べてきたような問題点があることを指摘しまして、きょうの質問を終わりたいと思います。
ありがとうございました。