農民の営みを破壊
これまで営々と続けられてきた農家の「自家増殖」を原則禁止(育成権者による許諾制)する種苗法改定案は、11月17日にも衆院農林水産委員会で採決し、今国会での成立が狙われています。
自家増殖とは、農民が購入した種子・苗を栽培・収穫し、翌年に再び自分の農地で使用することです。現行法の21条で、種子・苗の開発者の育成権が及ばないものとして、農家に認められています。
許諾を義務付け
改定案では、この21条を削除し、一律禁止。登録品種について育成権者の許諾を義務付けます。農民は、許諾料を支払うか毎年購入することになり、負担増となるのは明らかです。
農林水産省は、一律禁止の理由として、海外流出の防止を掲げていますが、破綻しています。
12日の衆院農水委員会で、日本共産党の田村貴昭議員の「一律許諾制にしても、海外への持ち出しを防ぐことは物理的に無理ではないか」との質問に、農水省の太田豊彦食料産業局長は「完全に止めることが難しいのはおっしゃる通り」と認めました。海外流出を止めるには、海外で品種登録をするしかありません。
2017年成立の農業競争力強化法では、公的機関の知見を民間に提供するとされました。これまで国民の力で築いてきた知見をもとに、種子企業が品種登録を増やす可能性があります。種子法廃止などで公的な開発体制が弱まるなか、種子企業による農業支配が強まるおそれがあります。
自家増殖認める
世界的には農民に自家増殖を認めることが常識となっています。日本の種子(たね)を守る会の印鑰(いんやく)智哉氏によると、米国でも植物特許を取得したもの以外は自家増殖が可能。欧州でも小麦などは「自家増殖」ができます。例外なく禁止するのは日本だけです。
「植物の新品種の保護に関する国際条約」でも15条で「自家増殖」を認めています。国連で採択された「農民の権利宣言」(2018年)でも農民の権利と規定しています。
「自家増殖」を通じ、農民は、気候・風土、地理的条件に応じて多様な食料を人々に供給してきました。
種苗法改定案では、品種の多様性、栽培技術を奪い、気候変動などへの対応力を失わせかねません。多様な食文化の維持や安全・安心な食を求める消費者の願いにも反するものです。(しんぶん赤旗 2020年11月17日)