○田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。
意見陳述者の皆さん、きょうはどうもありがとうございます。
私は、北九州です。国会との往復はほとんど飛行機です。飛行機に乗ってあちこち行くわけなんですけれども、窓から下を見おろしたときに見える景色というのは、いつもやはり感動します。それはやはり、この国の国土を形成しているのは山であり、川であり、田んぼであり、畑であり、ほとんどがこうではないかなと思います。
それで、最初に藤原先生にお伺いしたいと思います。
先生は、水田耕作は水管理の合理的システムというふうに御主張されます。農業や農村が失われることは災害を引き起こすし、そして環境にも影響を与えていく。こうした点についての解説をしていただければというふうに思います。
○藤原宏志君 今御質問のありましたいわゆる水田稲作における水管理システムについてなんですが、これは農家の方はよく御存じなんですけれども、まず、日本というのは本来、水田稲作に実は向かないところなんです。水田稲作が発展したところというのはいわゆる沖積地、例えば中国のような、あの広い水田地帯のあるようなところで最初に水田稲作がやはり発展してきているんですね。
その中で、日本はそういう大きな平野というのを持たない。ほとんど日本の場合は傾斜地であります。大なり小なり傾斜地なんです。その傾斜をうまく利用して水田をやる、これは日本だけではないんですけれども、やはり、そういう技術を日本に導入した、稲というもともと日本にない植物を主食に選んだというのは、本当に私は奇跡と言ってもいいぐらい、日本人にとって大きな出来事だったと思うんです。
水田稲作というのは、例えばこの高千穂を見ていただくとわかりますけれども、山から水を引いて一番上の田んぼに入れて、その田んぼの水が今度は下の田んぼに移っていく。同じ水が何回も何回にもわたって使われるわけなんです、いわゆる循環しているわけなんです。平野の場合だと、こんなことはできないんですね。地下浸透しちゃったら、そのまま海に流れてしまうわけなんです。
ところが、傾斜地の場合は、それは中間流出というような形でまた下流域で利用される。実際に、そういう合理的な循環システムで最大限に水を利用しているんですね。さらに、水田は田んぼの中に水をためるわけですから、この総貯水量というのは、日本のダムの総貯水量の二倍の貯水量が計算上はあるんですね。
そういう意味では、水資源を有効に使うという意味でも極めて合理的なシステムであるというふうに言っていいと思います。
○田村(貴)委員 ありがとうございました。
もう一問、藤原先生にお願いしたいと思います。
きょうは食料自給率のお話も出てまいりましたけれども、同じ先進国でも日本とヨーロッパでは食料自給率が大きく違います。それはなぜなんでしょうか。農業に対する国の考え方の違いがあるのではないか、私はそういうふうに思っているんですけれども、先生の御所見はいかがでしょうか。
○藤原宏志君 おっしゃるとおりで、国、政府というよりも、国民が違うんですね。つまり、ヨーロッパの国というのは今はEUで統一されていますけれども、あのEUをつくったというのは、一つは戦争をもうしたくないということがあるんです、単なる経済的な原因だけではないんです。それぐらい戦乱に明け暮れた歴史なんです。その中で、食料をとめられたらもうお手上げだということはよく知っているわけなんですね、国民が知っているんです。
そういう意味で、それぞれの国で食料は基本的には自給するんだ、これは農民だけじゃなくて国民全体でそういう合意がある、だから、いわゆる所得補償方式、あるいはそういう制度が成り立つんですね。つまり、それは税金を投入する以外はないわけなんですけれども、そのことを国民がよしとする、やはりそういうコンセンサスがあるということだと思います。
○田村(貴)委員 ありがとうございます。
農業そして稲作が国土の形成につながっているし、安全対策上も非常に重要だ、それから、食料というのは安全保障であると。それはやはり国民が考えていかなければいけないというふうに私も受けとめました。
陳述者の方にそれぞれお伺いしたいと思います。
政府の対応とか国会での審議をどのようにごらんになっておられるんだろうか。
例えば、今国会の冒頭は、SBS米の価格が公表より安く販売されていた、いわゆる価格偽装疑惑というのがあったわけであります。それから、合意文書の問題ですけれども、六千ページにわたる英訳の協定書の一部しか和訳されていない。これでは交渉過程がよくわからないし、ノリ弁当というふうに言われているわけであります。それから、きょうも陳述者の方からそれぞれありましたけれども、やはり、よくわからない、そもそもわからないといったお話が続きました。
こうした中で、やはり情報開示が必要だ、それから徹底審議が必要だ、何よりも国民の声をよく聞いていく。きょうのような公聴会は、中央公聴会もしかるべきだし、地方の公聴会だって、ここと北海道にとどまらず、全国各地でもっとやったらいいじゃないかというふうに私は思うわけであります。
そこで、審議に入る前から強行採決みたいな言葉も出てきて、それがまた新聞やテレビでも報道されるというような状況が続いているわけなんですけれども、お尋ねしたいのは、政府はこのTPPについて国民に十分情報を開示しているだろうかといった点について。そして、国会は今、衆議院で特別委員会なんですけれども、国会での審議というのはし尽くされているだろうかといったところについて皆さん方はどういうふうに受けとめておられるか、これについてお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。知事からで結構です。
○河野俊嗣君 今の御質問についてであります。
このTPP協定の交渉、大筋合意の内容自体も大変膨大なものであろうかというふうに思っております。我々はやはり、聖域なき関税撤廃というところを最初に聞いたときに非常に不安に思ったということはこれまでもお話があったところでありますが、途中、国との交渉事でもあり、なかなか思ったような情報が出なかった部分はありますが、国に対し十分な情報開示、説明をお願いしたいということを繰り返しお願いしてきて、いろいろな形で説明会を行っていただき、そして大筋合意の後もいろいろな、農業分野は農業分野でということでそういう場を重ねていただいたというふうには受けとめております。
なかなか、全てが全て、それをそしゃくし理解するというところまで、全ての国民が、住民が、また農家の方がというところまでに至っているかどうかというところはありますが、いろいろな意味での努力というものはされたというものを私は受けとめておるところであります。
国会においても、長い期間をかけて、今の段階を踏んで、さまざまな形で議論をされたものと私は受けとめております。
○蒲生芳子君 先ほどから言っているように、やはり広く情報の開示というのはまだまだだろうというふうに思っているところです、私の周囲を見ても。だから、今回のようなこういう場所もですけれども、もっと地域に入っていって、いろいろな話を聞いていってほしいな。
そうなると、ちょっと時間がどうなんだろうか。それこそ先ほど言われたように強行採決なんて言われると、国民はすごく、えっ、どんどん知らぬうちに決まっちゃって嫌だということになるとやはり不安になるので、そこら辺の情報を広く、そしてわかりやすい言葉でやってほしい、オブラートで包んだ形じゃなくて。
TPPというのは広い分野ですので、農業だけに限らず、分野分野でやはり問題を、保険とか医療とか働き方とかいろいろなところにかかわってきているTPPですので、こういう農村地帯、山間地帯では食とか農のところですけれども、広く全体にわかりやすいところに、こういうふうな意見を聞いたりとかという積み重ね、やはり国民の総意でこういうものが決まっていくのが本当かなというふうに、本当に素人感覚で私はそう思います。
やはり、大事な次の世代にかかわることを急いだらいかぬのではないかな。もうちょっと大切に審議したり、いろいろな意見を入れて、国民の合意のもとにいろいろなことが進められるといいかなというふうに思います。
○興梠哲法君 交渉事ですから、相手あっての協議ということで、やはりなかなか私たちに伝わってこないという部分があるというのは十分認識しております。ですから、私は、与えられた十分間の時間で、周りが不安がっているような懸案をきょうこの場で述べさせていただきました。
そして、この場にきょう出るということで、TPPの特別委員会の議論も、テレビや新聞、至るところから情報を、ここ二、三日、集めて見てきました。与党、野党の方の質問を見ていて、国会の中でも本当にやはり農業のことを考えてくれていらっしゃるんだということを、私は今回のこの場にいさせていただくことで、そういった国会内で農業がこれだけ議論されていることを本当にうれしく思いました。
○藤原宏志君 最初にお話ししましたように、私は極めて不十分だと。不十分というのは、開示されていない部分があるわけですね。これは、TPPそのものの中に四年間は伏せるという項目、内容があるわけなので、どうしようもないところがあるんですけれども、そういう協定であるがゆえに、やはり私は素直に賛成できないということでもあります。
それから、それ以上に国民の理解が進んでいない。これは、今までほかの陳述者の方々が言われたとおりであります。そういう点では、もっと時間をかけて十分に説明する責任が政府、国会にはあるというふうに私は思います。
○田村(貴)委員 ありがとうございました。
興梠さんに一つお伺いしたいと思います。
先ほど、いろいろなお話の中で、攻めは攻めでもいいかもわからないけれども、そうはできない地域があるんだ、そして全てがそんな農家ではないというお話がありました。
中山間地で農業そして畜産を営む興梠さんにとってみての一番の御苦労というのはどこにあるんでしょうか。
○興梠哲法君 個人的としてですかね。
私は畜産経営ですので、生き物を相手にしていますから、仕事的にはそういったことになるかと思いますけれども、全体的に地域を見た場合には、きょう述べさせていただいたように、高齢化が進み後継者がいないという今の現状を何とか打破していかなければならない、それが一番の今の悩みであります。
○田村(貴)委員 ありがとうございました。
そういう苦しみ、心配、懸念がいっぱいあるという中でのこの論議だと思うんです。
河野知事にお伺いしたいと思います。
宮崎県は宮崎県で、TPPの試算を額として発表されています。また、JA宮崎の試算もこれまた独自に発表されていて、農業の生産減少額が約六百八十六億円ですか、県全体の農産額の二割にも相当するというような試算もあります。
国の試算、県の試算、そしてJAさんの試算ともに、やはり農林水産業の生産減少額というのがある、そして雇用にも影響が出てくるといったところで、知事は、守るべきものは守り、攻めるものは攻めていくというふうに言われたんですけれども、やはりトータルとすると、こうした輸入農産物の拡大そして関税撤廃という流れの中においては、特に宮崎県においては大きな影響が出るのではないかなと私は懸念するものであります。いま一度、知事の御所見をお伺いできればと思います。
○河野俊嗣君 このTPP協定をめぐる、さまざまなこれまでの本県内での議論があるところであります。
先ほど言いましたように、聖域なき関税撤廃、それはもう宮崎の農業はもたないのではないか、大変な心配が広がったところでありますが、この大筋合意に至るまで、さまざまなぎりぎりの交渉を経て、段階的な削減でありますとかセーフガード、いろいろな措置といいますか、そんなものが講じられているということに加えて、国の対策要綱に示されたさまざまな、今後とも我が国の農業というのをしっかり守っていくんだというような対策というものを我々としては受けとめて、それをいかに本県に取り込み活用していくかというのが重要ではないかというふうに思っております。
いろいろな変化はその時代、その時代であろうかというふうに思っておりますが、その中でいかにこれまで築いてきた農業をしっかり守っていくのか、それが我々の課題だというふうに考えております。
○田村(貴)委員 ありがとうございました。
今、セーフガードというお話も出ました。牛肉の関税引き下げ、十六年かけて九%になっていく。そして、その十六年後のセーフガードが発動されるときの供給というのはどのぐらいなんだろうか。これは国会でも審議があったんですけれども、国内供給量の九割に当たる七十三万トンぐらいにならなければセーフガードは発動されないということです。それは自給率一〇%程度の状況においてのセーフガード発動ですので、それには意味があるのかなという思いもするところであります。
攻めの農業、攻めの和牛、その輸出戦略を政府の方は描くわけでありますけれども、果たして、畜産大国宮崎県の牛、豚、そして鳥、こうした畜産というのは成長、発展していくのでしょうか。農業の専門家であります藤原先生に、この宮崎、畜産とするところの農業がこのTPPによって成長、発展できるのだろうか、これについて御所見を賜りたいと思います。
○藤原宏志君 畜産の問題というのは、非常に難しい問題がございます。というのは、特に牛、豚というのは歴史的に言うと明治以降の話なんですね。そういう意味で、穀類の生産から比べると時間的に短いわけです。そういう意味では、いろいろな意味での蓄積がまだなされていない、あるいは、ほかの穀類生産に比べて文化として日本の国の中に、あるいは国民の中に落ち込んでいる、しみ込んでいる、沈み込んでいる部分がやはり少ない、そういう産業であろうと思います。
そういう中で、畜産の将来ということなんですが、政府の方で言われております、例えば牛肉について言えば、高級肉の輸出ということを言っておられる。先ほど河野知事さんからは約九十数トンの輸出があったということなんですけれども、それは全体からいえばごく一部なんですね。しかも、そういう高級肉が食べられる人というのはそんなにたくさんいるわけではないんです。圧倒的に多いのは、できるだけ安全で、しかも安い肉が欲しいというのが消費者の要望ですから。そういう点では、今のいわゆる日本の畜産は高級牛肉でやっていくんだと言わんばかりの政策、これは興梠さんも先ほど指摘しておられましたけれども、やはりそれは違うんじゃないかと。
本当に、日本の国民の胃袋を日本の畜産物で満たしていく、先ほども言いましたけれども、やはり自分の国でつくっていくんだということが私は食料の基本だというふうに思っておりますので、そういう点では、外に打って出るというお話には、そういう部分があっちゃいけないとまでは言いませんけれども、少なくとも主流ではないだろうというふうに思っております。
○田村(貴)委員 ありがとうございました。
四人の陳述者の皆さんからの御意見、御要望、思いなどが、国会での豊かな審議、そして徹底審議につながっていくことを心から願って、私の質疑を終わらせていただきたいと思います。
ありがとうございました。