しんぶん赤旗【解説ワイド】 「異次元政策継続」の植田新総裁候補 

2月24日 植田日銀総裁候補への質疑②手詰まり日銀

国民生活に影

 

 日銀総裁を2期10年間務めた黒田東彦(はるひこ)氏の退任(4月8日)が迫り、新総裁候補の植田和男氏が24日、衆院議院運営委員会で所信を表明しました。植田氏は、黒田日銀の「異次元金融緩和」が思ったほどの効果を上げず、日銀がリスクを抱え込んだことを認めつつ、政策継続の意向を示しました。10年前に掲げた2%物価上昇目標が重くのしかかります。

 
金融緩和
経済の好循環起きず
 
 2013年3月20日に日銀総裁に就任した黒田氏は安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の「第1の矢」を担いました。長期国債や投資信託などの買い入れ額(量)と対象(質)を大幅に拡大する「異次元」の「量的・質的金融緩和」によって、物価を安定的に2%引き上げ、2年程度でデフレ(持続的な物価下落)から脱却すると宣言しました。
 
 しかし、外的要因を除けば10年たっても物価は2%上昇に至らず、賃上げを伴う経済の好循環は起こりませんでした。24日の質疑で日本共産党の田村貴昭議員から「なぜ2%を達成できていないか」と問われた植田氏は「(金融緩和が)思ったほどの強い効果とならず、2%に達していない」と答弁。「金融政策だけではデフレから脱却できないのでは」との田村氏の質問に対しても「ほかの要因も効いてくる」と認めました。
 
 金融政策でデフレから脱却するという発想の背景には、「日本経済低迷の原因はデフレであり、デフレは貨幣的現象だから、日銀が貨幣を供給すれば事態を打開できる」という理論がありました。安倍首相(当時)は「日本銀行が日本銀行の責任として」2%の物価安定目標を「できるだけ早い時期に実現する」(13年2月7日、衆院予算委員会)という発言を繰り返しました。
 
 しかし「デフレは低成長の原因ではなく、結果である」(白川方明〈まさあき〉元日銀総裁『中央銀行』)というのが事の真相です。「物価の持続的な下落が起こる場合には、その根本的な原因は需要の不足という点にある」(同)のです。
 
Screenshot 2023-02-25 at 10-26-17 しんぶん赤旗電子版 今日の紙面 自公政権は需要を高めるどころか、反対に落ち込ませ、実体経済を痛めつける政策を連打しました。とりわけ消費税増税で13兆円、年金削減で4兆円も国民の実質可処分所得を減らしたことが、需要減退の重大要因となりました。非正規雇用の増大によって賃金も低迷し、物価の影響を差し引いた実質賃金は下落し続けてきました。(グラフ1、2)
 
 需要が落ち込む下では、貨幣は実体経済に回らず、好循環は生まれません。日本は経済が成長しない異常な国となりました(グラフ3)。国民の負担で大企業と大株主の利益を増やす新自由主義の政策を転換しない限り、日銀は異常な緩和政策から脱却できない泥沼に永久にはまり込むことになります。

 

日米金利差
円安で物価高騰招く
 
 2%の安定的な物価上昇をめざして低金利政策を続ける日銀は不本意な物価高騰を招き寄せました。物価抑制のために利上げに転じた米国との金利差が急拡大し、金利の低い円が売られて異常円安が進んだためです。
 
 輸入物価の急騰が波及して、1月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比4・2%も上昇しました。生鮮食品を除く食料にいたっては7・4%上昇しています。
 
 異常円安と日銀の金融政策の関係について田村氏が尋ねたのに対し、植田氏は「内外金利差の影響は否定できない。大きかったのは米国の金利の上昇」だと答えました。一方で、外的要因は今後減退するため、「基調的インフレ率」は2%に達しておらず、安定的な物価上昇を実現するまで金融緩和を続けて「経済をしっかり支える」という考えを示しました。
 
 しかし足元では米国の利上げが長期化するとの見方から再びじわじわと円安が進んでいます。円安に伴う物価上昇は国民生活を圧迫し、経済を下押しする要因となっています。「経済を支える」といいつつ円安を引き起こす日銀は、矛盾に直面しています。
 
国債引き受け
通貨への信認危うく
 
 10年間続けた「異次元緩和」によって日銀は584兆円もの国債と37兆円もの株式上場投資信託(ETF)を抱え込みました。植田氏は「リスクを抱えていることは事実」「ETFをどうしていくかは大問題」だと指摘しました。
 
 日銀がETFを一部売却すれば、株価が急落して日銀自身の資産が毀損(きそん)しかねません。「出口」を展望しても、日銀は深刻な難題を抱えています。
 
 さらなる大問題は、日銀による大量の国債買い入れが事実上の財政ファイナンス(中央銀行が国債を引き受けて政府に資金を供給すること)になっている点です。田村氏が「(円への信認が失われて)悪性インフレーションを引き起こす恐れがある」と指摘すると、植田氏は「安定的な物価目標を達成するという金融政策の必要から実施しているもので、財政ファイナンスではない」と述べました。他方で植田氏は「(日銀の政策が続く)前提として通貨への信認が確保されていることが重要」だとも強調しました。
 
 政府の財政規律への疑念が高まり、円への信認が失墜すれば、そのとき日銀に悪性インフレを止める力はないということです。
 

 岸田文雄政権は軍事費を2倍に増額し、建設国債を自衛隊の艦船や潜水艦の財源に充てる方針です。大軍拡は周辺諸国との緊張を高め、さらなる大軍拡の呼び水となります。こうした悪循環と結び付いた野放図な国債発行に、日銀が加担する形になれば、「通貨への信認」をも危うくしかねません。(しんぶん赤旗 2023年2月25日)