○田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。
参考人の皆さん、本日はありがとうございます。
最初に、四人の参考人の皆さんにそれぞれお伺いをいたします。
本法案の審議は入ったばかりであります。私も含めて野党の議員は、まだ一問も対政府質問をこの委員会でしておりません。ところが、もう採決の話が出てきております。七十年ぶりの抜本改正というのであれば、漁協、漁民の方を中心にした国民的議論が必要だというふうに考えます。急いで可決、成立する必要性があるのでしょうか。
お伺いしたいんですけれども、今この法律が通らないと、漁協や漁民にとって不都合なことが生じるのでしょうか。お聞かせいただきたいと思います。
○岸参考人 今回の法改正が拙速ではないかという御発言だと思っておりますが、我々も、水産庁の協力も得て、全国で何回となく説明会も行い、漁業者レベルでの意見もいただきながら今まで対応をして、それをもとに御意見を反映させた法文が策定されておると理解しております。
資源のより一層の推進や漁業権について、現行の枠組みは基本的に維持される一方、また、我々沿岸漁業者の考え方は基本的に反映されておるわけであります。さらには密漁対策の抜本的強化などの、これも現場で出た意見であります、そういうことも含めて取り込んでいただいたわけでありまして、その点については我々の意見も踏まえたものであるというふうに評価をいたしております。
なお、今後法案が成立すれば具体的な運用の検討が当然進められるわけでありますが、そういう場合にも、我々の意見をしっかり聞いていただいて、その内容について漁業者が理解するようなものに仕上げていただきたいということもお話し申し上げておるところであります。
今なぜ必要かということでありますが、我々漁業者は、みずから進んで、五年前から浜の活性化プランということでやってまいりました。こういう一つの転換期の今、我々は、こういう水産政策の改革も含めて我々が自主的に取り組んできた浜プランの実践を含めて、やはり漁業者が頑張るような体制づくり、それを今私はやるべきだというふうに理解しておるわけであります。
以上であります。
○八木参考人 今実施しないと何か不都合が生じるかどうかという御質問だったと思います。
私は欧米の研究者と議論する機会が多いんですが、その際に、日本の水産資源の管理の目標は何か、書いたものが見当たらないのでよこしてくれという質問がよくあるんです。今回の法律案では、農林水産大臣が資源管理の目標などを含めて資源管理基本方針を定めることになっています。こういう外国人の研究者の質問にも的確に返答できると考えています。
そうすると、例えば、今度、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。持続可能な水産物の調達基準というものが定められていますが、現時点で日本の水産物の多くがこの基準をクリアしているといった説明が、この水産資源管理の目標がはっきりしていたり、あとは法律が整備されていたりすると、より説明がしやすくなるというメリットがあるんだと思います。
ですから、あれば、こういう好都合なことがあるという状況です。
以上です。
○佐野参考人 私も、今やる意味というのは、資源管理を取り込む、一つの法律化するというところは、確かに、対外的な、日本の資源管理、漁業を取り込んだ形の資源管理、これをきちんとやっていくということを示す上ではまあ意味があるのかなと思います。
一方で、ではこれを今やらないと漁業者、漁民の生活、実際の操業に何か不都合があるのかというと、私はないと思います。その点では、今の制度でも特に問題はないように考えております。
○加瀬参考人 私は、今回の法律の改定というものが、企業に沿岸漁場に参入することを容易にする、これは政府も言っておりますし、書かれたものから見てもそのように判断するほかはないわけですが、それを目的にしたものである以上、従来、企業が沿岸漁業にスムーズに入ってきたから沿岸の中にクロマグロ養殖の漁場がどんどんふえてきたわけです。これが、この法律が成立をすれば、漁場、漁協の側にはプラスは何もなく、マイナスばかりになりますので、漁協が承諾の判こを押すということは絶対になくなるでしょう。したがって、今まで順調に養殖漁場が拡大してきたものが、企業に対しては全くそれを設定することはできないという状態になるはずです。
望まれていることはそういう状況ではないわけですから、したがって、法が通らないと不都合だ、これはどちら側にとっても、そうした意味での不都合だというような状況では全くない。なぜ今が選ばれたのかといえば、さまざまな不都合な事態があっても果敢に法律を通している安倍内閣の時期にこれを達成してしまおう、議論が現場におりていったならば収拾のつかない反対意見が多くなってしまう、そういうことなのではないかと思います。
実際に、この法律によってつくられる制度が適用されるのは、二〇二三年の九月が予定されているわけです。次の一斉更新の時期が予定されているわけです。まさに今、一斉更新がこの九月に終わってから、五年先に行えばいい法律をこの日程の中で成立をさせようということは、極めて合理的でない判断ではないかというふうに思っております。
○田村(貴)委員 そこで、企業への漁業権の付与について、加瀬先生にお伺いいたします。
企業への漁業権の付与について、政府はこう言っております。漁業者の減少、高齢化が進む中で、地域によっては漁場の利用の程度が低くなっている、だから活性化しなければならないという論立てなんですけれども、そういう状況があったとして、そうならしめた要因を先生はどのようにお考えになっておられるでしょうか。
また、漁業権優先順位を、企業を漁協よりも優先するという枠組みをつくって、漁場の利用というのは促進されるんでしょうか。活性化されるんでしょうか。このことについてお伺いしたいと思います。
○加瀬参考人 ちょっと質問の順序を逆にさせていただいて、最初に、漁場はあいているかという問題について発言させていただきます。
これは、一般のマスコミの報道などでも、漁場があいているんだから、今までの規則を変えて企業が入りやすくするというのはいいのでないか。私も、そういう説明だと、説明を聞けば、これは当然だなというふうに思ってしまうと思います。
しかし、現実はどうでしょうか。漁場があいているというふうに判断している根拠というのは、唯一、就業者が減少しているということです。漁業就業者がこの七十年の間に三分の一になった、そのことをもって、漁場はいわば三分の二があいているじゃないかといった非常に単純な発想があると思います。
しかし、その間、沿岸漁業の変化はどうであったのか。漁船の大型化、FRP化、木船からFRPに、そして、焼き玉エンジンから高馬力の高性能のエンジンに、そして、航空宇宙情報も利用した航海システム、さらには、さまざまな装置産業化、そうしたものが続いている。
何よりも、馬力が強化され、網が強い力で引かれるというような形で、投入される漁獲努力量というのははるかに増大をしているわけです。それが、沿岸域から流れ込む住民の生活排水等によってベースとしての基礎生産力が下がっている中で、少ない資源に対して強化されたパワーというものが漁獲のために動き回っているというのが実態です。そうした漁獲能力が上がりながら、しかし、沖合に出ていくことは一切許されなかったわけです。
一九〇一年が明治漁業法の第一の版ができたときです。そして、全文書きかえの一九一〇年、いわゆる明治漁業法ができましたから、七十年という戦後漁業法の期間にプラスして、一九〇一年、二十世紀の最初の年から今日まで、この沿岸漁場、当時は動力はありませんから、その時点では日帰りで手こぎの沿岸漁場だったわけです。それが全然拡張されないで、今日に至っているわけです。そういう狭い漁場の中に閉じ込められているのは、沿岸から沖合に出ていくことが許されないからなんですね。これは、沖合漁業の漁獲を守らなければいけないという形が貫徹をされているわけです。
そういうような中で、漁場があいているかというふうに問題を立てた場合には、漁場は、確かにあいているところはあるんだけれども、漁場として使える優良な漁場、養殖がそこに集まり、あるいは刺し網をやって魚がたくさんかかってくる通り道に当たる、そういったところについては、今までのように漁協の管理する漁場の中に漁業者が入ってきて、漁協が沿岸の漁業者と対立しないように漁場を割り振る、そういうプロセスがない限り、交通整理ができないだろうというふうに思っております。よい漁場は皆が使いたがるのであって、その意味ではあいていないというふうに言っていいと思います。
それから、そういうふうになった要因、すなわち、三分の一の漁業者になってしまった要因は何なのかということですけれども、農業でも全く同じですが、同じだけの人数が、その産業、食料産業、自然産業に必要であったならば、工業の製品をどのように国内に販売するんでしょうか。それは、工業において、人工的な技術によって労働生産性が上がるから、したがって、農業、漁業における労働生産性も、その技術を使って上昇することによって、人々が食べるために必要な他人の労働力の規模というものがどんどん縮小していったから、経済は進歩できたはずなんですね。それが就業構造の変化ということです。したがって、そういう意味では、漁業者の減少というのは、何ら産業としての漁業の衰退を示さないというふうに理解をしております。
じゃ、思ったように所得が上がらなかった、漁業者が減りながらも、思ったように所得が上がらなかったのは何なのかといえば、農業に比べて、沿岸漁業というものが、はるかに自然の経営のままに任されて、所得補償のシステムも、今部分的にやっと入っているところがありますけれども、極めて不十分な形で行われている。現在、この法律の問題よりも、予算獲得に重点を置こうというような議論も聞かれますけれども、その予算獲得で行き着く先が何なのかといえば、大型船の補助金をふやしていくというのが中心になっているわけです。
沿岸漁業が、そうした中で、十分な施策を得た上で衰退しているというような実態ではないということを主張したいと思います。
以上です。
○田村(貴)委員 ありがとうございました。
岸会長にお尋ねしたいと思います。
先ほどから質問があっているわけなんですけれども、漁業者、漁協の理解は得られているかといったところなんですけれども、会長は、全体で説明会六十回ぐらい、そして、かなりの漁業者レベルで理解は進んでいる、代表者レベルでは理解されているというふうにおっしゃいました。
全国に一千の単位漁協があるわけなんですけれども、そうすると、一千の組合長さんがおられるわけですね。この一千の組合長さんレベルでは、今度の漁業法の改正、改定については理解がもう進んだというような御理解でよろしいでしょうか。
○岸参考人 説明会の参集の範囲も、地域によってもかなり違うところもあると思っております。たくさんの漁業者が出席された地域もあるわけでありまして、総じて、全国的な状況を把握する場合に、代表者レベル、それも、各業界の代表もおりますし、系統の代表もおりますから、そのレベルでは、私はしっかり要望も出していただいて、それを取り込んだ中身を水産庁とも詰めながら、法文に反映させていただいたというようなことがございまして、そういう点では、代表者、又は業種別の代表者の方々の御理解はいただいたというふうに思っております。
地域によっては、漁業者まで、真剣な議論をいただいた中で、最終的に理解しましたよという声もいただいておる地域もございます。したがって、全国全てがどうと言われますと、そこまでの把握はしておりませんが、総体的に私は漁業者レベルの理解はいただいたという理解をしております。
以上です。
○田村(貴)委員 これは全体の共通認識にしたいなと思うんですけれども、私もきのう、野党各党の皆さんと一緒に宮城県の漁業者からお話を聞きに行ったんですけれども、どこに行っても、単位漁協的には知らない、今から聞くと。また、中身について知らされた方は、漁船の大型化が懸念される、漁協に入らなくても単独で知事の認可ができる、そういう漁業ができる仕組みは大変心配だ等々の声が聞こえてまいりました。
ということで、やはり、全国十四万人の漁業者が本当に今度の漁業法の七十年ぶりの全面改定について知っているか、理解がいっているかといったところは甚だ疑問である、ここが今一番大事ではないかというふうに思うところであります。
それで、企業への漁業権の付与について話を戻したいと思うんですけれども、加瀬先生、もう一問お願いします。
優先順位について、水産庁はこういうふうに述べておられます。利用の程度が低くなっている漁場については、地域の実情に即して、水産業の発展に寄与する者に免許するとしています。発展について寄与する者に免許すると。そうすると、現状で、自足的な沿岸漁業を営んでいる多くの漁協があるわけなんですね。そうした自足的な沿岸漁業を営んでいる漁民、漁協にとって、水産庁が成長目標とするところのいわゆる漁獲高等の目標に合わなかったら、これは結局排除されていくんじゃないかなというふうに私は読み取ったんですけれども、先生、いかがでしょうか。
○加瀬参考人 私も同じように考えます。
何よりも、利用が低度になったという判断をする際に漁獲金額だけで判断をするというような、そして、これを新しい漁場に変えていこうとする場合には、その漁場で漁業をやっていたわけではありませんから、進出しようとする企業は多分こうなるだろうという計画で出すわけですね。高齢化した漁業者が例えば三百万円の水揚げで自足的にやっている、それが三十人いて九千万、全部合わせても九千万しか揚げていないというようなときに、多分二億円ぐらいは揚げられるだろうという想定の数字が出てくるわけです、実際にそうなるかどうかではなくてですね。
その想定の数字によって、その漁場はもうだめですよということで追われるといったようなことはどうしても避けなければいけない。それは極めてストレートに、あなた方はこの経営体によって放逐されるんですよということが素直にわかってしまうことになりますので、紛争なしではとても済まないだろうというふうに思っております。
もちろん私も、例えば、完全、高齢者が一人もいない、あるいは一人の人が趣味で釣りをやっているだけだというところに他の人たちが全然入れないというような形がいいなどとは言っていません。しかし、漁業者の常識として、漁業者がここで見てここには新しい生産力化の努力が必要だなということは漁業者もまたわかるし、そういうのを無駄にすることがいいことだなどとは決して思っていないというふうに思います。
そういう意味で、言われたような内容については非常に懸念しているということです。
○田村(貴)委員 同じ質問です。佐野先生、水産業の発展に寄与するという限定、それから、成長目標といったところに照らしてみたら今まで頑張っている漁業者が排除されてしまう、こういうことの可能性が出てくるんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○佐野参考人 恐らくそこが、今、浜で納得されていないという漁業者が多いことの一つの理由になっているんだと思います。その懸念が懸念で、杞憂で終わればいいんですけれども、そこについての実際の具体的な運用がやはり知事の判断に委ねられてしまっている、この法律だけ捉まえますとそうなっておりますので、そこでやはりそういうリスクはないわけではない。私どもも不安は、そこは強く感じているところです。
以上です。
○田村(貴)委員 時間が参りました。
参考人の皆さん、ありがとうございました。質問を終わります。