鳥インフルから鶏守れ 感染経路 ハエ浮上/要注意の場所・時期特定の可能性も

 昨シーズン、日本国内で高病原性鳥インフルエンザによる鶏の殺処分総数は1771万羽におよび、鶏卵用鶏の約1割に達する大規模な被害をもたらしました。鶏卵の供給量激減による異常な価格高騰は「エッグショック」とも呼ばれました。鳥インフルエンザをいかに防ぐか。近年の研究で、鶏への感染をハエが媒介している可能性が指摘されています。研究結果に基づいて、これまでの感染対策を見直すことが求められています。
 
大規模調査 ウイルス検出
 
Screenshot 2024-02-28 at 09-43-27 しんぶん赤旗電子版 2024年2月27日の紙面 2004年、日本で数十年ぶりに鳥インフルエンザの発生が確認されて以来、農林水産省が主導して全国の養鶏業者で対策が取られてきました。しかし有効な対策を取ることができないまま昨年、パンデミックが発生しました。
 
 これまで、カモ類などの渡り鳥によって日本国内にウイルスが持ち込まれることは実証されていました。一方、渡り鳥から鶏など家禽(かきん)への感染経路は明確ではなく、クマネズミやスズメ、自動車のタイヤによるウイルスの伝播(でんぱ)などに対する対策が取られてきました。
 
 これに対して、現在注目されているのが、冬に活動するオオクロバエというハエの種です。国立感染症研究所の小林睦生名誉所員は、2004年に鳥インフルエンザが発生した京都府中部の丹波町(現・京丹波町)の農場近くでハエの採集を行ったところ、採集されたオオクロバエのうち20~30%の個体から鳥インフルエンザウイルスが検出されました。
 
高い確率で
 
 九州大学農学部准教授の藤田龍介さんの研究室では、2022年冬、鹿児島県出水市(いずみし)で、オオクロバエの生息状況の把握とウイルスの検出を目的にした調査を大規模に行いました。同市は、毎冬1万羽ほどのツルが飛来し、昨シーズンは1600羽ほどの死骸が発見された場所です。水鳥の間で鳥インフルエンザが大流行した可能性が懸念されていました。
 
 ツルが密集して生息していた場所の近くで採集されたオオクロバエから、15%の確率でウイルスが検出されました。藤田さんは「衛生昆虫学の世界では0・1%であっても大流行を起こしうると認識されている。局所的とはいえ15%は大変な数値だ」と話します。
 
 オオクロバエは、気温が高い夏は標高の高い山間部などで過ごし、秋から春にかけて平地に降りて活動することが知られています。藤田さんは「オオクロバエは餌の周囲を旋回するような飛び方はせず、普段はとまって日の光を浴びながら、体温が上がれば餌に向けてまっすぐに飛ぶ『潜行飛行』という飛び方をするため、一般の人には見つけにくい性質がある」と指摘します。
 
好んで捕食
 
 国立感染症研究所の先行研究により、オオクロバエは鳥インフルエンザウイルスを1~2日ほど保持し、1日で1~2キロメートル飛ぶことが分かりました。さらに鳥インフルエンザが発生した鶏舎の周辺では、8~9割の施設で、ため池や川などの水場が近くに存在することも確認。水場に飛来する感染した渡り鳥のふんや死骸を摂食したオオクロバエが、鶏舎へウイルスを運んでいる可能性があります。鶏がハエを好んで食べることも実験で実証されました。
 
 小林さんは「農水省が有力視していたネズミやスズメ、ムクドリなどからはウイルスは検出されていない。しかしハエからは検出された。今回の研究により、水場周辺やオオクロバエが活発に活動する時期など、注意が必要な場所と時期を特定できる可能性も出てきた」と語ります。
 
共産党質問 農水省動かす
 
 小林さん、藤田さんらの研究を受けて、日本共産党の田村貴昭議員は昨年3月の衆院農林水産委員会で質問。オオクロバエが鳥インフルエンザウイルスを媒介している可能性について農水省の認識をただしました。「農水省の指導に従って対策をとった事業者でも再発しており、現場は大変苦しんでいる。専門家の知見を生かすべきだ」と求めました。(質問動画はコチラ)
 
 野村哲郎農水相(当時)は、ハエを警戒すべきだとの専門家の指摘を直接は受けていないとしつつ、「今後新たな知見が得られれば現場に還元し、発生予防、まん延防止に生かしていきたい」と答弁。田村議員は「今出ている知見を吸収してほしいと言っている。何でそこまでこだわるのか」と迫りました。
 
 このもとで、農水省、環境省、厚生労働省と藤田さんらは情報共有を進め、今年の春からは農水省と藤田さんらは共同研究を進めていくことが決まりました。これまで立ち入りが禁止されていた発生農場内での調査もできるようになります。
 
 藤田さんは、田村議員の質問を契機に事態が動き出したと強調。「国会質問の力を実感し、大変感謝している。鳥インフルエンザは1件でも発生すれば農家にとっては大変なリスクになります。今後は具体的な対策に向けて、事業者や行政が納得できるような、よりよい提案をしていきたい」と話します。
 
 田村議員は「専門家の知見が生かされるようになったことは大変よかった。一刻も早くハエによる媒介を事業者らに周知し、対策を確立すべきだ。鳥インフルエンザを防ぐための科学的な対策をとることは、養鶏農家の安定経営にとっても、消費者に対する鶏卵の安定供給にとっても重要であり、政治の責任として求めていきたい」と語っています。(しんぶん赤旗 2024年2月27日)