食料危機打開の道 自給率向上を国政の柱に――共産党議員団の提言/プロジェクトチーム事務局長 田村貴昭衆院議員に聞く

 日本の低すぎる食料自給率はこのままでいいのか――。国民の食と農に対する関心はかつてなく高まっています。日本共産党国会議員団は8月23日、政府に「食料自給率の向上を国政の柱に据え、農政の基本方向の転換を」と題する申し入れを行いました。提言をまとめた食料・農業・農村基本法見直しプロジェクトチーム事務局長の田村貴昭衆院議員に話を聞きました。
 
「食料自給率向上を国政の柱に据え、農政の基本方向の転換を」を農水省に届け、申し入れ
 

基本法見直しに向け

 
――このタイミングで申し入れを行ったのはなぜですか。
 
 政府の農業政策の基本方針を定める「食料・農業・農村基本法」の改正に向けた議論が、昨年秋から政府内で進められています。来年の通常国会には改正案が提出されます。
 
 この見直しの契機は、昨今の食料危機への懸念です。新型コロナの影響による食料需給の混乱、ロシアのウクライナ侵略による国際的な物流の停滞は、「食料はいつでも好きなだけ輸入できるものではない」ことを如実に示しました。
 
 いっぽう、国内農業は、危機的です。食料自給率が38%に落ち込み、2010年に205万人だった基幹的農業従事者は、この12年で4割に当たる82・5万人が離農しました。農地は東京都の面積を大きく超える26・8万ヘクタールが失われました。
 
 ところが、5月に発表された「中間とりまとめ」と、それを受けた政府の大枠の方針「食料・農業・農村政策の新たな展開方向(以下『展開方向』)」を見ると、これまで目標だった「食料自給率の向上」の数値目標をさまざまな目標の一つに格下げにすると言うのです。「展開方向」には、「食料自給率」という言葉自体がなくなっていました。これでは後退です。
 
 そこで、日本共産党国会議員団としても、岸田政権の農政「見直し」の内容を厳しく批判し、それに対置する形で、危機の根本的打開の方向について提案することにしたのです。
 

真の食料安全保障へ

 
――食料自給率向上を国政の中心課題に据えると一番に掲げていますが、どういうことですか。
 
 今後、食料が思うように輸入できなくなる原因は、世界人口増、異常気象の頻発による生産の不安定化、中国など振興国の食料需要の激増、わが国の経済力の相対的な低下による買い負け、米国等の穀物のバイオ燃料への転換など、枚挙にいとまがありません。
 
 しかし、自公政権には、自給率向上にまともに取り組む姿勢がありませんでした。食料自給率の目標は、一度も達成できたことはなく、国会にも報告されませんし、誰も責任を問われません。当然、達成できない原因分析もなければフィードバックもありません。
 
 国民が飢えるような事態は、なんとしても避けるのが政治の役割です。そのためには、食料自給率の向上・回復を国政全体の中心課題に据え、農政の最大の目標に掲げる必要があります。
 
 そして、目標を実効あるものにするためには、法律によって政府に対し、計画策定、達成度の検証、検証結果の国会への報告を義務付けるべきです。
 
 ところが「中間とりまとめ」「展開方向」は、自給率向上はもうあきらめて、「有事になったら農家に米や芋の作付けを強制する法律を作る」などと言いだしました。千葉の農家さんは「農業経営を成り立たなくしておきながら、有事には芋を作れなんて、バカにするにもほどがある」と怒っていました。
 
 真の食料安全保障とは、農家と農地を守り、食料自給率を向上すること、そして、何としても平和を守ることではないでしょうか。
 

輸入自由化との決別

 
――食料自給率向上のための課題はなんですか。
 
 第一には、輸入自由化路線からの決別です。日本はかつて食料自給率が7割ありましたが、戦後に米国言いなりになってどんどん市場開放したため、圧倒的に安い外国産に押されて淘汰(とうた)されてきました。これを回復するには、国内農業を守る「国境措置」を再構築することがまず必要です。そのためにも、WTO(世界貿易機関)の食料貿易体制を、各国の地場の農業を尊重するものに見直す必要があります。
 
 第二は、営農を続け、農村で暮らせる土台を政府の責任で整えることです。
 
 自給率が上がらないのは農家の収入が再生産を可能にする水準にないことが原因です。いまコメの生産費は平均でも60キロあたり1万5000円ほどですが、農家の販売価格は1万2000円台。全く採算が取れません。
 
 欧米では、農家の販売価格を一定以上に維持する価格保障政策と、耕作面積などの一定の基準で農家の所得を補償する所得補償を組み合わせることによって、再生産を維持できるだけの農家の手取りを確保する政策が当たり前になっています。
 
 なぜ「当たり前」なのか。
 
 農家は、私たちの生活に欠かせない「食べ物」を生産していますが、それは一筋縄ではいかない「生き物」を育てる営みです。天候や地形に左右され、時には害虫や感染症、災害で大きなダメージを受けます。こうした不利を補正しなければ、産業自体が失われていく。まさに今、日本で起きている事態です。
 
 この「当たり前」を日本でもやらなくてはいけません。
 
 これまで政府は規模拡大・経営効率化する農家に限って補助する政策を採ってきましたが、それが難しい中山間地・条件不利地の農家が次々離農し、農地が荒廃する事態を招きました。中山間地が農地の4割を占めるわが国でそんな政策をしていては、自給率が下がるのは当然です。
 
 大規模化を図る農家だけでなく、小さな農家もあまねく支援する財政的な支援措置が必要です。そのためにも、減り続けてきた農業予算を大幅に増加させる必要があります。
 

共同広げる取り組み

 
――申し入れの文書を活用し、どんな取り組みを考えていますか。
 
 先日、高橋千鶴子衆院議員がJA秋田中央会との懇談で会長にお渡ししたところ、「共産党の政策は納得できるところが多い」と話がはずんだそうです。
 
 この申し入れ文書を農協や自治体、消費者団体などに届け、共同を広げたいと思います。さまざまな取り組みを行っていきたいと思います。(しんぶん赤旗 2023年9月7日)