197-衆-本会議-6号 平成30年11月15日 漁業法等の一部を改正する等の法律案について質問 田村貴昭

○田村貴昭君 日本共産党の田村貴昭です。

 私は、日本共産党を代表して、漁業法等の一部を改正する等の法律案について質問します。(拍手)
 安倍総理は所信表明演説で、漁業法を七十年ぶりに抜本的に改正し、漁業の生産性を高めると述べました。しかし、法案は、水産の専門家が一人もいない規制改革推進会議が持ち出したものであり、官邸主導で進めてきたものであります。

 だから今、多くの単位漁協から、漁民の声を聞け、漁協の役割を潰すなとの声が上がっているのです。全国の沿岸地区の単位漁協一千組合。漁業者十四万人の声をしっかり聞くべきではないですか。
 現行の漁業法は、漁民の総意によって漁場を民主的に運用するため、地元の漁業者が全員加入する漁協を沿岸漁業権の一括した受け手とする仕組みとしています。これは、戦前の不在地主的な企業による支配で、漁業の利益が都市へと流出していったことへの反省からつくられた制度です。

 全国の沿岸では、地元優先の漁業権のもと、その地域に暮らす人々が漁業に携わり、漁村社会の豊かな文化と海の資源、環境を守ってきました。この漁業法の根幹を変えてしまうことは許されません。
法案は、その漁業権を、知事が直接企業に与えることを可能とし、地元優先のルールは廃止するとしています。

 既にこの制度を先取りした宮城県の水産業復興特区では、知事が漁業者や漁協の反対を押し切って企業に漁業権を付与したため、浜に無用の混乱が引き起こされました。ようやく今、地元漁協と企業が、知事の持ち込んだ対立を乗り越え、協調して復興への道筋を探っているのです。ここから酌み取るべき教訓は、企業に漁業権を付与することでしょうか。

 水産庁は、地元漁業者が漁場を適切、有効に活用している場合は継続して地元に漁業権を与えると説明していますが、適切かつ有効とは一体何ですか。知事による恣意的な運用にならない保証はありますか。
水産資源を管理することは、漁業にとって非常に重要です。法案は、魚種ごとの漁獲量の上限を計算し、個々の漁船ごとに漁獲枠を割り当てる制度を導入するとしていますが、広大な海に囲まれた日本は、三千以上の魚種を季節ごとに複雑多様な方法で漁獲し、利用しています。この制度で個々の漁獲量を正確に把握することができるのでしょうか。

 また、漁獲割当ての配分に沿岸漁業者の意見を反映する仕組みはあるのですか。浜の自主的な資源管理を支援することこそ必要ではありませんか。まき網などの資源に最もダメージを与える大規模漁業から順次制限していくべきではありませんか。

 禁漁を余儀なくされた場合、どのような補償をするのですか。

 クロマグロの資源管理では、政府が沿岸漁業者の意見を聞くことなく、一方的に大規模漁業を優先し、小規模な漁業者が生活できない事態に陥りました。同じことがほかの魚種でも起こるのではないですか。

さらに、法案では、漁船の大きさを制限するトン数規制を撤廃することとしています。大資本が大型船に投資した金額に見合う漁獲枠を要求し、結果的に乱獲と小規模漁業者の割当て削減が進むのではないですか。
また、漁業権について審議する海区漁業調整委員会の公選制も廃止し、知事による任命制にするとしています。これは漁業者の声を封じるものではありませんか。第一条の目的から漁業の民主化を図るの文言を削った理由とあわせて答弁を求めます。

最後に、日本の漁業は九四%が小規模沿岸漁業です。全国の小規模漁業者には、俺たちこそ海の資源と環境を守ってきたという自負があります。今、漁業政策に求められているのは、小規模沿岸漁業を中心に据えることであり、地元から漁業権を奪って企業に明け渡すことではありません。

以上で質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣吉川貴盛君登壇〕


○国務大臣(吉川貴盛君) 田村議員の御質問にお答えいたします。
 全国の漁協及び漁業者の声を聞くべきではないかとのお尋ねがありました。
 今回の水産政策の改革、そして漁業法等の改正案の取りまとめに当たっては、これまで、水産政策審議会、地方説明会などさまざまな機会を通じて、漁協や漁業関係者との意見交換を行っており、法案の内容についても、漁業者の全国団体の理解をいただいていると承知をしております。
 もちろん、説明会には十分過ぎるという言葉は当てはまるものではなく、今後、法案については、国会でしっかりと御審議をいただくとともに、現場の漁業者の皆さんの不安や不満の声にもしっかり向き合い、引き続き丁寧な説明に努力してまいりたいと考えております。
 企業への漁業権の付与についてお尋ねがありました。
 漁業者の減少、高齢化が進む中で、地域によっては漁場の利用の程度が低くなっているところもあり、今後どのように沿岸漁場の管理や活用を図って地域の維持、活性化につなげていくかが課題となっています。
このため、本法律案においては、法律で詳細かつ全国一律に漁業権免許の優先順位を定める仕組みを改め、漁場を適切かつ有効に利用している漁業者や漁協については優先して免許する仕組みとするとともに、利用の程度が低くなっている漁場については、地域の実情に即して水産業の発展に寄与する者に免許することとしております。
 こうした改正は、現に地域の水産業を支えている漁業者の経営の発展に向けたインセンティブとなるとともに、地域の活性化につながるものと考えております。
 漁業の免許における、適切かつ有効の判断基準とその運用についてのお尋ねがありました。
 適切かつ有効に活用している場合とは、漁場の環境に適合するように資源管理や養殖生産を行い、将来にわたり持続的に漁業生産力を高めるように漁場を活用している状況と考えております。
 具体的には、個々の事案ごとに、地域の漁業に精通する都道府県が実態に即して判断することとなりますが、都道府県によって判断の基準が大きく異なることがないようにする観点から、国が技術的助言を定め、適切かつ有効の考え方を示していく考え方です。
 また、免許付与のプロセスにおいては、都道府県知事は海区漁業調整委員会の意見を聞くこととしており、知事が恣意的に運用できない仕組みとしております。
 漁獲量の把握についてもお尋ねがありました。
ITの飛躍的発展により、低コストで漁獲量や漁業状況を把握することは技術的に可能となりつつあります。
このため、漁獲量の把握体制等の準備が整った漁業種類、漁業区域等の管理区分から順次漁獲割当て方式を導入してまいりたいと考えております。
 沿岸漁業者の意見を反映する仕組みについてお尋ねがありました。
 漁獲可能量の配分については、水産政策審議会での諮問やパブリックコメントにより沿岸漁業者の意見を反映できる仕組みとなっており、これらの手続を丁寧に進めてまいりたいと考えております。
 浜の自主的な資源管理への支援についてお尋ねがありました。
 現在、漁業者の皆様には、資源管理計画を作成し、自主的な資源管理に取り組んでいただいております。
 今後とも、これらの取組の重要性は変わらないと考えており、このような取組の高度化に対する支援を継続してまいります。
 資源管理措置導入の順序についてお尋ねがありました。
 漁獲割当てを導入するためには、船舶ごとの漁獲量を迅速に把握する体制が整えられていることなどが必要と考えており、操業の隻数が比較的少なく、水揚げ港も限定されている大臣許可漁業から先行して導入していくことになると考えています。
禁漁時の補償についてもお尋ねがありました。
 法案では、漁業調整の円滑な実施を確保するため、水産資源の状況及び当該水産資源の採捕の状況に照らし、当該水産資源の採捕に使用される船舶の数又は操業日数の削減その他の漁業者による漁獲努力量の調整を図るために必要な措置を講ずるものとすると規定されています。
 クロマグロの資源管理についてお尋ねがありました。
 クロマグロの第四管理期間における漁獲可能量の配分に当たっては、漁業者の意見を聞く時間が十分でなかったことを反省し、水産政策審議会資源管理分科会のもとにくろまぐろ部会を設置し、多くの漁業者からの意見を聞いて、配分の考え方について議論を行ったところです。
 クロマグロ以外の魚種の管理においても、クロマグロの経験を踏まえ、漁業者の意見を十分に聞きながら、適切な対応を進めてまいります。
 漁船のトン数規制の撤廃についてお尋ねがありました。
本件は、漁獲割当てが導入され、漁獲割当てにより採捕する数量が一定割合を超えている場合、船舶のトン数制限等の措置を定めないとしたものであります。
 したがって、御指摘のような、船を先に大型化し、これに見合う漁獲割当てを認めるという制度ではありません。
海区漁業調整委員会及び目的規定についてお尋ねがありました。
 海区漁業調整委員会については、漁業者を主体とする組織の性格や機能を維持した上で、実態に即した選任方法に改めるものであり、漁業者の声を封じるようなものではありません。
 また、目的規定については、漁業法の制定から約七十年の間の運用によって、当時の課題であった封建的な漁業慣行は解消され、当初の目的である民主的な漁場の利用形態の構築は既に実現されております。
 このため、現時点でなお漁業の民主化を法の目的とする必要はないと考えております。